本村凌二氏の新刊『テルマエと浮世風呂』は楽しい2022年02月25日

『テルマエと浮世風呂:古代ローマと大江戸日本の比較史』(本村凌二/NHK出版新書)
 ローマ史研究者・本村凌二氏は一般向け解説書を多く書いている。その何冊かを私は愛読している。洒脱で読みやすいからだ。本村氏の新刊新書が出たので早速読んだ。

 『テルマエと浮世風呂:古代ローマと大江戸日本の比較史』(本村凌二/NHK出版新書)

 古代ローマ人は江戸の日本人に似ていると語る歴史エッセイである。意表をつく発想だ。こじつけに思える箇所もあるが、雑談的な話題を超えた社会史的なアプローチのようだ。古代ローマの社会を実感できると同時に江戸時代の勉強にもなる。

 「ローマの水道橋と江戸の玉川上水」「ローマの剣闘士競技・戦車競走と江戸の花火・歌舞伎」「ローマの父祖の遺風と武士道」「アッピア街道と東海道」「ワインと日本酒」など多岐に渡る事項を俎上に、ローマと江戸の共通点を指摘すると同時に違いにも言及している。

 古代ローマの比較対象に江戸を選んだのは「前近代社会でローマの平和と繁栄に近づき得たのは、江戸時代の日本以外にあり得ない」と著者が考えたからである。キリスト教以前の多神教のローマは宗教的にも江戸と似ているようだ。一つの発見だと思う。

 千年以上の隔たりがある古代ローマと江戸時代が似ているのが不思議ではあるが、人間の社会はいつの時代も似たようなことをくり返してきたとも言える。

 本書が描くローマと江戸は、平和と繁栄がもたらした粋でハッピーな文化空間である。それを指摘する著者自身が、ローマや江戸の住人に重なる。本村氏は競馬と石原裕次郎と酒を愛でる学者だ。ローマと江戸に遊んでいる気分になる本である。

【無粋な蛇足】著者は本書で「参勤交代に諸大名の財力を削ぐ狙いがあった」「大井川の架橋は禁じられていた」と述べている。私もそう習った記憶がある。だが、現在の教科書ではこれらは否定されていると『もう一つ上の日本史』という本が指摘していた。